顧客名
カワサキモータース株式会社様
概要
IoT.kyotoはKAWASAKI製モーターサイクル(二輪車)用のConnected VehicleプラットフォームをAWSクラウド上に構築しました。このシステムには全世界の数十万規模のモーターサイクルとユーザーが接続され、リアルタイムで大容量の走行データの計算処理を行うもので、Connected Vehicle向けとしては世界で類を見ない革新的なプラットフォームが完成しました。当社ではクラウド側のプラットフォーム構築とスマホアプリの一部画面の開発をご支援しています。
近未来の乗り物に必要な要素の頭文字をとって「CASE」と呼ばれています。Connected、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリングエコノミー)、 Electric(電動化)の4つの要素のうち、Connectedはその中核をなし、他の3機能を支援する役割も担います。乗用車の世界でConnected機能の熾烈な開発競争が繰り広げられていることは周知の通りですが、モーターサイクルは非常に趣味性の強い乗り物であるがゆえ、カワサキモータース様は乗用車のConnectedとはまた違った、走る歓びやライダー同士で繋がる楽しみにフォーカスしたプラットフォームを目指されました。
Ninjaの一部車種(H2 SXやZX-10Rなど)その他Z900等のConnected対応車種で利用でき、モーターサイクルと「RIDEOLOGY THE APP MOTORCYCLE(スマホアプリ)」がインストールされたスマートフォンをBluetooth接続して利用します。サーキット走行の支援にも耐えられるレベルの高精度の走行データ(車体の挙動やスロットル開度、エンジン回転数など多岐にわたる測定項目)がスマートフォンを通じてクラウドにアップロードされ、クラウド側でリアルタイム計算処理を行った後にそのデータはスマホアプリに配信され「ライディングログ」として利用できます。その他に下記のような機能が利用できます。
- Vehicle Information機能
モーターサイクルの最新の状態やセッティングをアプリ上で確認することができる - チューニング機能
ライディングモードや電子制御サスペンションなどの車両セッティングを、アプリ上で設定し、設定したいタイミングで車両にプッシュ送信することができる - ライディングログ機能
走行中のエンジン回転数やスロットル開度など、実際に走行に関わる情報を記録し、スマートフォン上で地図やグラフ、3Dアニメーションと組み合わせてプレイバックできる - メンテナンス機能
モーターサイクルの給油がオイル交換など、メンテナンス記録を残すことができる - 統計情報機能(ランキング機能)
モーターサイクルの走行距離に合わせて期間毎に走行距離を確認できたり、他のライダーと走行距離に応じて、ランキングが表示される - お気に入りトリップ機能
公開許可された他のライダーのライディングログの記録が参照できる - 付近のユーザ検索機能
公開許可された他のライダーの位置情報が取得できる。将来的には双方向でコミュニケーションを取れるように考えている
モーターサイクルからの走行データの送信は、全ユーザー分を合わせるとピーク時で数十万レコード/秒ものとてつもないデータ量となりますが、AWSクラウドの最新のデータ分析基盤を活用することでリアルタイムでサマリ処理を行い、低遅延でユーザーがデータを利用できる仕組みを実現しました。
2022年5月25日・26日に開催のAWS Summit Online 2022にて、カワサキモータース株式会社 企画本部コネクティッド推進部 志村拡俊様が当事例をテーマに事例セッションにご登壇されました。
カワサキが目指すコネクティッドビークル ~世界中のライダーに届ける新たなライディング体験~
(リンク先をご覧いただくにはAWSSummitへの登録が必要です)
カワサキモータース株式会社企画本部コネクティッド推進部ご担当者様に本プロジェクトに込めた想いをお伺いしました。
メーカーだからこそご提供できるモーターサイクルとモーターサイクル、モーターサイクルとライダー、ライダーとライダーとが繋がるアプリ
———RIDEOLOGY THE APP MOTORCYCLEを何故モーターサイクルに搭載しようと考えられましたか?
まず、アプリの名前にも入っている「RIDEOLOGY」ですが、走り「RIDE」とこだわり「IDEOLOGY」を組み合わせたカワサキの造語です。これはカワサキのやろうとしていること、コンセプトや想い、商品やサービスにおけるカワサキのこだわりを指す言葉です。(https://www.kawasaki-cp.khi.co.jp/rideology/)
世の中にはお客様にコネクティッドを提供するアプリは多く存在していますが、車両と人とが直接繋がるアプリはあまり多くありません。我々はメーカーですので、メーカーができること、車両が持っているデータとお客様を繋げてモーターサイクルで走るという“感覚”で楽しんでいるものを目で見て楽しんでもらったり、あるいは新しい出会いを見つけてもらうために、車両と直接繋ぐことを主軸に置いてアプリ開発に取り組んでまいりました。
カワサキの主力モーターサイクルは中型大型車両です。これは趣味性が高く、ツーリングやサーキットに持ち込み、走ること自体を趣味として楽しまれているお客様がほとんどです。そんなお客様の余暇の時間にモーターサイクルでどう走ったのか、どう楽しんだかをデータでも振り返っていただきたい。また今回のアプリではライダー同士のマッチングも実現したかったのです。時代とともに価値観やライダーの年齢層も移り変わっており、モーターサイクルを買ったはいいけどどう楽しめばいいかわからない、という新しい世代のお客様も中にはいらっしゃいます。全てのライダーの楽しみ方を拡げたい、そのためにライダーとライダー、モーターサイクルとライダーとを繋げていくことをアプリで実現しようと考えました。
——3Dモデルによる走行姿勢の再現は特に「RIDEOLOGY」のカワサキイズムを感じます。
モーターサイクルのライダーは、自分がモーターサイクルに乗っている姿は実はあまり見る機会がありません。例えば、信号待ちの時にショーウィンドウに映る自分やモーターサイクルを見たりして、モーターサイクルに乗っている姿が恰好良く見えているかな、と気になることがあります。ただ、ライディング中の自分の姿はなかなか確認できないものです。それを3Dモデルにしたことで、お客様自身のアバターではありませんが、自分がどんなふうにモーターサイクルに乗っているかを振り返ることができます。車やモーターサイクルのレースゲームもリプレイがありますが、同じ感覚で自分が走ったライディングを再現できたらいいなというのがコンセプトとしてはありました。
車のコネクティッドアプリでは例えば鍵の開け閉めがアプリ上でできるなど、利便性が高く、誰でも恩恵を受けることができるものがありますが、「RIDEOLOGY THE APP MOTORCYCLE」 はライダーの本質的な欲求からコンテンツを考えているところがあります。
——ライダー同士のマッチングはコネクティッドアプリの中でも珍しい機能だと感じます。こちらを重視する理由はありますか?
先ほども述べましたが、ライダーとモーターサイクルを繋ぐのは基本的だと考えていて、ライダー同士、モーターサイクル同士のマッチング機能は概念として機能を搭載したいと考えていました。モーターサイクルさえ手に入れば一人でも走り回って楽しんでいた時代がありましたが、今はよりモーターサイクル +人の繋がりだったり、コミュニティーだったりが重要な要素になってきたと感じています。そういう方に向けて、共有公開しても良いという方には車両の情報を共有してもらい、同じモーターサイクル、気になるモーターサイクルを見つけていただいて、ツーリング先だったり休憩スポットなど、情報があればコンタクトできるんじゃないかと考えて、ライダーのモーターサイクルに対する興味や関心を広げる手助けがしたいという想いがあります。
このアプリでコミュニティが少しずつでも大きくなって、いずれは他社のモーターサイクルに乗るライダーとも繋がれるエコシステムを目指していきたいと考えています。
——今回リニューアルしたアプリの機能の構想はいつ頃からありますか?
モーターサイクルのコネクティッドを考え始めたのが、2015年で2016年からプロジェクトは開始しています。ただ、最初にサービス開始したアプリはクラウドなしでやっていたため、クラウドとは切り離したエッジだけの機能になっていましたが、IoT.kyotoさんのサポートもいただきながら、2020年からクラウドの構想を作り上げることができました。
コネクティッド推進部の“コネクティッド”に込める意味としては、モーターサイクルとスマホだけでなく、ライダーとライダーも繋げてモーターサイクルの世界をさらに拡げるコネクティッドを目指したいと考えています。
——技術的な話に移りますが、開発ではハイレートなデータ処理にこだわっていらっしゃるように感じました。何か理由はありますか?
社内で研究用にデータロギングする時は、研究開発用の車両からはかなりの高精度で取っています。正直、収集するデータ量は減らすべきという意見は社内でも出ていましたが、モーターサイクルは車と比べるとエンジンやスロットル、挙動の変化が大きいため、趣味性の高いモーターサイクルのデータを扱うにはやはりハイレートなデータが必要なのではないかということで、今回はかなりハイレートなデータを収集しています。これをクラウドにあげることでお客様にモーターサイクルの挙動を見せられます。
将来的にはこのデータを使って、ライディングのアドバイスなども行っていきたいと考えています。
——現状、収集しているデータには満足されていますか?
まだまだ改良は必要ではありますが、3Dモデルの走行姿勢の再現など、お客様に目で見て楽める機能をまずは実装できたこと、社内でも統計データの活用を始めています。
データを活用することで、お客様にさらに新しいサービスを提供していくことを計画しています。
——IoT.kyotoが内製化の技術支援の一環でCDKトレーニングを行わせていただきましたが、内容などはいかがでしたか?
継続的にやってもらいたいと考えています。内製化とは言っても、全て理解して全部自前でやろうとは思っていません。カワサキの理念として人材育成という点でもシステムの中身や概念を理解し、丸投げにはせずに、知識を持った状態で会話ができることが必要です。
双方刺激し合いながらプロジェクトを進めていきたいと考えています。
——今後の展開について教えてください。
収集したデータはデータレイクの形で活用できるよう準備を進めています。データ分析基盤でAWSと話しながら自分たちで手を動かして基盤を構築していこうと思っています。また、統計としてモデルごと、エリアごとの運転状況を分析して、 商品改良につなげていきます。
モーターサイクル以外の商品にも今後展開していき、未知の領域も対象にして新たなチャレンジとしていきたいですね。
——IoT.kyotoに今後期待することはございますか?
AWSで日々、新しいサービスが生まれていて、設計当時はベストと思っていたアーキテクチャよりも更にベストな方法ができそうな場合、ぜひ見直してご提案いただきたいです。
まとめ
インタビューではKAWASAKIモーターサイクル用Connected Vehicleプラットフォーム「RIDEOLOGY THE APP MOTORCYCLE」を通して、モーターサイクルとライダーだけでなく、ライダーとライダーとを繋げたいカワサキのコネクティッドのお話を深くお伺いすることができました。コンセプトや構想への想いを伺うことで、当案件がモーターサイクルをより恰好よく乗りこなしたい、ツーリングやサーキットなどでモーターサイクルを楽しむ全てのライダーたちのために、時代に即した付加価値を生み出すプロジェクトなのだと感じました。
今後は収集したデータをどう活用していくか、Connected Vehicleがこの先どのように展開されていくか楽しみにしています。また、IoT.kyotoはカワサキ様が掲げるConnected Vehicleの理想に少しでも近づけるよう、今後もご協力いたします。
参照記事のご紹介
ITmedia様にAWS Summit Online 2022 内の登壇内容を記事にしていただきました。
カワサキが挑む「つながるバイク」前人未踏のクラウド活用
AWS社のWEBサイトに事例記事を掲載していただきました。
ハイレートな走行データ処理を AWS によって実現 コネクティッドサービスでモーターサイクルに 新たな “Let the good times roll” を